さて、私の故郷愛媛県の漁業を紹介するのはこの投稿が初めてとなります。

今治市にある桜井漁協は瀬戸内海の中でも中心部にある燧灘という海域に面しています。

私のイメージでは、底曳網や蛸壺漁の印象の強かった今治の漁業ですが、

先日、私のおじいちゃんと桜井漁協の競りに見学に行って話を聞いたところ、

戦車漕ぎ網というよくわからない物騒な名前の漁法があると聞きました。

愛媛県の中でも東予と呼ばれる地域は、

昔は全国的に見てもかなり荒くれ者の漁師さんも多かったそうです。

水産業界の大人たちは少し警戒しているような話も聞いていましたが、

是非乗りたいとお願いしたところ、快く乗せて頂けることになりました。

戦車こぎ網漁業は、網口にツメのついた網を海底に滑らせて魚を捕まえる漁法です。

正式には小型機船底びき網漁業という底曳網の一種で、1人で操業することができます。

現地の漁師さんの間では、網口についている「まんが」という漁具の名前をそのまま用いて

「まんが漁」とも呼ばれています。

漁獲効率の高い漁法のため、操業時期は12月1日から翌年の3月31日までと定められています。

そのため、今回は3月中に行かないと!!と焦って予定を詰め込みました。

他の漁業に比べて集合時間は適当みたいで、「午前中好きな時間に来たらええ」

とのことだったので、8時に港に集合することにしました。

8:20 桜井港を出発。瀬戸内の海には、私の普段住んでいる宇和海とは違って黒潮の流入が

ないため、少し白っぽい青〜緑色をしています。透明度は非常に高く、船底の水中に

浸かっている部分もとてもクリアに見えました。宇和海に比べて養殖が少ないからか、

発泡スチロールのゴミは少なく、たまにペットボトルが浮かんでいる程度。

意外と綺麗だなぁと感じました。

8:30 沖に走ること10分。「まんが」と呼ばれるツメのついた網を海底へ下ろします。

最初に網を下ろした場所は水深約20m。しばらくひきずっていると海底までの水深が深く

なってきたのか、だんだん網を引っ張っているロープが海底方向に引っ張られるように

なってきました。ここから何回かに分けて少しずつロープを伸ばしていきます。

今回の操業は大体水深20〜40mの砂泥域で行いました。

今回狙うヒラメやカレイのような異体類は砂地と泥地の境目あたりを狙えば捕れるそう。

私には、船の上からどこが砂地でどこが泥地なのかわかりませんが、漁師さんは迷う事なく

網を入れていきます。海底地形なんて長年の経験がないと把握はとても難しいです。

これが漁業における新規参入の難しさでもあります。

しばらく海底を引きずっていると、船が何かにぶつかったように動かなくなりました。

急に海底までの水深が浅くなって、網が海底に引っかかったのだそう。漁師さんは船を

上手に操縦してその窪みから漁具を外します。このスキルもこの漁法を実際に自分で

やってみないと習得できないことです。漁師さんは当たり前のようにやってのける

ことでも、私にはなんでそんなことができるのか疑問だらけで、漁業はまだまだ奥が深くて

面白いなーって思います。

8:50 網を下ろしてから20分、網を引き上げ始めます。

引き上げ始めてから5分程度で網が水面に見えてきました。

この時には船から魚の様子はわかりませんが、だんだんと海鳥たちが寄ってきます。

まんがの両端と真ん中に繋がっている鎖に、ウインチに繋がるロープをカラビナで

引っ掛けて引き上げていきます。まんがのツメが胸元くらいの高さにくるまで

引き上げたら、船にまんがを固定し、ツメに引っかかったゴミや魚を外していきます。

次は網の中腹部をウインチに繋ぎ、袋網の底が船の甲板に浮くくらいまで引き上げます。

甲板の上で袋網を縛る紐を解くと、網の中からおさかなさんたちがドサッと出てきました。

漁獲物は7割くらいがスナヒトデやテナガコブシガニなどで、

5~10cm程度の小さなカレイの仲間もたくさん出てきました。

お目当ての魚は、マゴチ、イネゴチとウシノシタ(シタビラメ)が数尾、

ガザミとヒラメ、セトウシノシタが1尾ずつでした。

11:00 今回は3回網を曳いて港に帰ってきました。

決して大漁と言えるほどの漁ではありませんでした。漁師さん曰く、昔はもっと獲れていた

そうです。瀬戸内海の排水規制が厳しくなってから年々海が透明になっていき、

海藻も生えなくなってしまったとのこと。瀬戸内海で漁業をされている方は、

口を揃えてそう言います。また、ここ数年ではアナゴやエビ類、カニ類(ガザミ)、

タコが極端に減っているとの話も聞きます。もちろん、水質だけが原因ではありませんが、

ここ数十年で瀬戸内海に生息する水産重要種が減少しているのは事実でしょう。

魚の資源量は常に増え続けるようなものではないですが、全体的な資源量が長期に渡って

少ない状態が続くと、その間に文化や技術も失われてしまう恐れもあります。

だから、たくさん魚が取れるわけでもない沿岸の小規模漁業だけれども、

過去にこんな漁法があってどのように操業されていたのか、

少しでも記録に残しておけたらいいなと思います。

実は、今シーズン戦車漕ぎ網の漁に出たのは初めてだったそう。

先日まで入院してたそうで、体調も万全ではない中船を出してくださいました。

貴重な体験を最大限自分の成長の糧にできたらいいなと思います。

今回乗船させてくださった汐崎さん、本当にありがとうございました。

これからも、いろんな漁師さんや漁法を紹介していけたらなと思います。

この記事を読んでくださった漁師さんで、「うちの船にも乗っていいよ!」

って方がいらっしゃったらInstagramでもTwitterでも、Facebookでもかまいません。

DM頂けたら嬉しいです。

プロフィール

かーりぃ|水産チャレンジ応援ディレクター(F-COD

 愛媛県松山市出身(25)。1歳の頃から海への憧れを持ち、水産大学校生物生産学科に進学。4年間の海響館でのアルバイトとダイビング部での活動を経て、水産の道に進むことを決意。愛媛県の水産試験場で宇和海の資源評価・管理に係る業務を行い、『地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2024』を受賞。
 現在は、札幌を拠点に個人事業主として海難救助に関わる仕事をしながら、福井県立大学海洋生物資源学専攻で、いわし類の利用流通に関する研究を行っている。「令和の海って疲弊してたな」って言うために、SNSを駆使して水産業及び関連産業の振興と漁村の地域創生に貢献していきます。

SNSリンク集:https://instabio.cc/mermaid-carly

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1件のコメント

  1. 初めまして。カーリーさん。桜井漁港から
    三K圏内で、牧場経営していますヒラツカと申します。漁師さんとは縁がないのですが、カーリーさんの情報はすごく引き込まれます。よく、フェイスブック見てますよ。

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